公開日:2026年2月12日

ドラマのポリコレが気になるハナシ

TABのスタッフが気の向くままに更新する日記。今回はタハラが『ゲーム・オブ・スローンズ』やスピンオフなど海外ドラマについて語ります

A Knight of the Seven Kingdoms、The Last of Us、Game of Thrones Photograph by Courtesy of HBO

先日TOKYO NODEで始まった「攻殻機動隊展 Ghost and the Shell」を見てきました。

「あー、S.A.C.(TVシリーズ)からもう25年近くになるのかー」とか、「主題歌のOrigaも、草薙素子を演じた田中敦子もいなくなってしまった……」という感慨を感じてました。

同時に、「新シリーズはどう時代に合わせてくるのかな」というのが気になってしまってました。特定の登場人物に感情移入するよりは、次はどの演出で来るのかな、「いやいや、これじゃないんだよ」などと先読みして答え合わせをしてしまう、すなおに見ることのできないタチです。

改めて攻殻機動隊の『スタンド・アローン・コンプレックス 2nd GIG』(2004−2005)を見返すと、移民の顔貌、肌の色などの描き方に相当気を配っていたんだろうなと思いつつ、現状アニメ業界でも著名な声優が声高に排外主義を叫ぶなどしていて、「水は低きに流れる」とはこのことだな、という気にもなります。

エンタメの極致の『ゲーム・オブ・スローンズ』

すこし海外に目を向けて、以前『ゲーム・オブ・スローンズ』というドラマにハマっていた時期がありました。

主人公がなにも決断できないがために、物語がカタストロフに向かうのも悲哀があった Photograph by Courtesy of HBO

一言で雑な説明をしてしまうと、「血湧き肉躍る、ドラゴンと魔法と殺戮と謀略まみれの大人の『指輪物語』実写版」なファンタジー超大作なわけです。

Photograph by Courtesy of HBO

エミー賞の史上最多受賞記録を獲得しているのも納得の、「これこそが資本主義の国の映像美学だ!」というCGと衣装と撮影のスケール。しかしながら、いろんな知人に勧めたにもかかわらず、放映期間は10年以上かかってシーズン8まであるために、合計70時間を超えるとなると、布教のハードルが高すぎて……。

とはいえ、仕事がしんどかったときに見ていたせいで、大聖堂の爆破、ヴィラン王子の毒殺や、さらにはドラゴンによる殺戮のシーンに至るまで、なんどBGMを聴きながら心を奮い立たせたことか。あらゆることに仕事の心情を重ね合わせてしまっていたのはここだけの秘密です。

Photograph by Courtesy of HBO
Photograph by Courtesy of HBO
Photograph by Courtesy of HBO

ちなみにすでにもう誰もその名を口にしなくなった細田守の『果てしなきスカーレット』はモロに『ゲーム・オブ・スローンズ』からの影響を受けたトレーラー過ぎました(未見です)。

迷走するスピンオフ

ゲーム・オブ・スローンズ』は、スピンオフがすでに2本配信されていて、1本は『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』として、女性たちを主人公にした前日譚。新シリーズとしての期待も高く、かつ前作に頻出していた女性キャストの無用なヌードを排したり(『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズには、インティマシー・コーディネーターがいなかった)、戦闘シーンのみにカタルシスを求めない演出は好感が持てていました。が、シーズン2はどこに力点をおいているのかわからない脚本になってしまい、最終話はただのオムニバスになってしまうなど大失速気味。シーズン3は2026年配信予定。

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ソノヤ・ミズノが演じるミサリアはミステリアスな役柄。アジア系はいつこうした配役から逃れられるんでしょうか Photograph by Courtesy of HBO

もうひとつは、先日配信がスタートしたばかりの『ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダム』。こちらは騎士道に則り、大男が活躍するのかと思いきや、なぜかのっけからトイレのシーンや尻をあえてモザイク入りで映すなど下ネタが多かったり、主人公の頭の悪さをひけらかす謎の展開に。ここからどう話を盛り返すのか気になるところ。シーズン2も制作決定済み。

Photograph by Courtesy of HBO

"完璧"な映像化を果たした『ラスト・オブ・アス』

スピンオフではないものの、私のイチオシなのは、『ゲーム・オブ・スローンズ』のキャスト(ペドロ・パスカル、ベラ・ラムジー)が主役2人を演じた作品の『ラスト・オブ・アス』。ゾンビが蔓延するポストアポカリプスのヒューマンドラマです。PS3/PS4での原作ゲームをプレイして衝撃を受けた人も多いはず。ゲームではゾンビを倒さなければいけないプレッシャーが強すぎて悪夢を見まくっていたのだけれど、ドラマでは恐ろしいのは何より人間というのが明確になってしました。クリアまで見届けた、あのとき一緒にプレイしてくれたひとには、ほんとうに感謝しかないです。それくらいこの映像化は見てよかった、と思えるものでした。

ラスト・オブ・アス キーヴィジュアル Photograph by Courtesy of HBO
『ゲーム・オブ・スローンズ』では、子役として圧倒的な存在感を放っていたベラ・ラムジー Photograph by Courtesy of HBO

ここで強調したいのは、原作の設定をほぼ残しているものの、主役のルッキズムと人種の問題を克服しつつ、さらにアップデートしたドラマが出来ていたこと。

シーズン1は、3話ほぼまるごとのエピソードが追加(ゲームでこんなシーンなかったけど? と驚いた)や配役の妙もあったりと、繊細で原作から変わらない作曲の音楽も、緻密でグロテスクなゾンビの菌糸の造形も、なにも文句のつけようがないシリーズでした。メイキング映像では、テス役のアナ・トーヴが「セットが完璧で、ネズミの糞がゴマで作られていたのよ!」と叫んでいます。

エリー役のベラ・ラムジーが迫真の、鬼気迫った演技を見せるものの、英語圏では容姿への心無いコメントが目に付く Photograph by Courtesy of HBO
原作ゲームにはほぼなかった3話。泣いてしまう Photograph by Courtesy of HBO
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先日、出演していたキャサリン・オハラが亡くなってしまったのは残念だ Photograph by Liane Hentscher/HBO

ドラマ『ラスト・オブ・アス』のシーズン3はおそらく2027年。シーズン1が正当化出来ずにいた復讐劇の行き着く先がどうなるか、シーズン3では敵役だったアビー視点でのストーリーが待たれるところ。

大コケしたSF超大作『三体』映像化

もうひとつ、SF大作『三体』(原作小説の一部の和訳を、なんと自分の高校時代の現代文・古文の教師が翻訳していてびっくり)のNetflixでの映像化にも触れておきます。弩級の設定と物理学、宇宙工学をふくめた描写とで、すっかり引き込まれた大長編。こんなの映像化なんて無理だろう、と思うも、Netflixでの潤沢な予算、かつ『ゲーム・オブ・スローンズ』の脚本チームが手がけると聞いて、「逆にこの布陣なら外すわけがない」、と確信していた、はずでした。

蓋を開ければ、予想はしていた原作改変のうち、メインキャストの人種が中国人から変わるのは順当だったとはいえ、ご丁寧に人種も属性もバラバラの5人に振り分けられてしまい、全体が緊張感のないエピソードばかりに。原作の課題のひとつでもある、主人公に都合のいい「美女」描写の稚拙さは、大いに修正されるべきだったものの、それ以前の問題になってしまったのでした。なお、本国中国でのドラマ(テンセント版)はまるで正反対で、原作に対してかなり忠実に描かれていました。

Netflix版はまだシーズン2が今年公開予定となっているだけなので、原作第2部の「黒暗森林」の凄絶な戦闘シーンをどう映像化してくれるのか、またとっちらかってしまった脚本をどう回収してくれるのか、不安がありつつも期待したいです。

このほかディズニーの『ズートピア2』やピクサーの『星つなぎのエリオ』、HBOの『トゥルー・ディテクティヴ』シリーズ(エプスタインの文書など陰謀論とされていたものが暴かれるなか、シーズン5が待ち遠しい!)だったりも触れたいけど、また別の機会に。

結局なにが言いたいかというと、時代に即した表現手法、シナリオ、キャスティングはもちろん必要とはいえ、失敗すると反DEIのようなバックラッシュの言説に容易に絡め取られて消費されてしまうんですよね。美人を起用しないから売れないドラマだった、地味だから予算が集まらず十分な演出ができなかった、その落とし穴をどう克服してくれるか――現実の日本には攻殻の2nd GIGでの茅葺のような女性宰相はいないわけで、しっかりと見つめていきたい2026年です。

Xin Tahara

株式会社アートビート 取締役

Xin Tahara

株式会社アートビート 取締役

Tokyo Art Beat Executive / Brand Director。 アートフェアの事務局やギャラリースタッフなどを経て、2009年からTokyo Art Beatに参画。2020年から株式会社アートビート取締役。植物育成が趣味。